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フリーランスになりたい方へ 〜フリーランスのメリットとデメリット〜

フリーランスになる目的は? どんな人がフリーランスに向いている?

「時間と場所にしばられない」「ノマドワーカー」「やりたいことをして暮らす」…… フリーランスになれば、自由な生活が待っている! スタバでMac片手にスラスラ〜ッと仕事するんでしょ。

そんなイメージ、あると思います。 しかし、本当にそうなのでしょうか?

いきなり水を差して申し訳ないのですが、いざフリーランスになってみると、その実態は想像以上に泥臭いです。 キラキラした世界を夢見てフリーランスになったものの、会社を辞めた翌月の収入は5万円以下なんてよくある話です。 学生のバイト代よりも安い。

この章はフリーランスになることを手放しで推奨するわけではありません。 もちろんメリットもありますが、それ以上にデメリットやリスクもあるのが独立という道です。

会社を辞めて、スーツケース1つで上京し、フリーランスになって3年目。 おかげさまでお仕事を依頼してくださるクライアントも増え、年収は会社員の頃の給料の3倍になりました。 もちろんここまで来る間に失敗したり、信頼を無くしたりしたこともあります。将来について悶々と考え込んでしまうことだってあります。 とはいえ、フリーランスになる選択をしてから今日まで、今までの人生の中で過去最高に充実していることも事実です。

「自分の命を何に使いたいか」。ある日、その目的に気がついたら。 学校や会社の中では実現できない、と気がついたら。 いつでもそこにはフリーランスという選択肢が、ぽっかりと口を開けています。

もし今あなたがフリーランスになろうか迷っているのであれば、この章を判断材料のひとつにしていただければ幸いです。 Webデザイナー 兼 漫画家の湊川あい(みなとがわ・あい)が、フリーランスの実態をお伝えします。

会社員って、実はめちゃくちゃ恵まれているんですよ

開口一番「お前は何を言っているんだ」と思われそうですね。 筆者はフリーランスになって初めて、しみじみとこう感じたのです……「会社員って、実はめちゃくちゃ恵まれていたんだ」と。

今これを読んでいる人の中には「会社は私のことをわかっていない!」「会社なんてなくてもやっていけるんだからな!」 といきり立っている方もいるでしょう。過去の私です。

どれだけ会社が素晴らしいかお伝えしましょう。 驚くべきことに、会社は毎月決まった金額の給料が振り込んでくれるのです。

え?当たり前ですって? では考えてみましょう。あなたが月収35万円の会社員で、新規事業担当だったとします。 新しい自社サービスを作るために、丸1ヶ月もくもくとコーディングしたとします。 満を持して、いざリリース!……ところが悲しいかな、まったくユーザーがやってこない。 当然売上は立たず、人件費だけがかかりその月は大幅な赤字になってしまいました。

さて、この月のあなたの給料はいくらでしょう? 答えは簡単ですね。いつも通り、35万円が振り込まれることでしょう。

これがフリーランスだといくら振り込まれるでしょうか? 0円です。

驚きましたか? 会社では「今月赤字だったから、お前の給料も0円な」なんてことはありえませんよね。 労働基準法で労働者は守られているからです。 さらに新規事業がうまく行かない可能性や、会社を維持するための資金のやりくりを加味して戦略を立てているので、 事業単体で見れば赤字になっても、他の事業の売上でカバーすることができるわけです。

対してフリーランスは、35万円がどこからか降って湧いてくるわけもありません。 丸1ヶ月かけて作った自作サービスが失敗すれば、そのまま家計が赤字になるだけです。

  • 会社員
    • 働いたら働いた分だけ給料がもらえる
  • 個人事業主や経営者
    • いくら働いても利益が出なければ収入はゼロ、赤字になることも

もちろん、オフィスに出向して働くような、会社員的な働き方のフリーランスもいることでしょう。 その場合は人件費で換算されるので、前者に近いお金の受け取り方になります。 (以降、このタイプを「やとわれ型」と呼びます)

しかしながら「会社という団体の中ではできないことをするために、フリーランスになった」という人は後者でしょう。 (以降、このタイプを「自立駆動型」と呼びます)

この章ではみなさんが知りたいであろう、後者の働き方について重点的に取り扱います。

個人だから成せること・複数人のチームだからこそ成せること

個人だからこそ成せることもありますが、複数人のチームだからこそ成せることもあります。 たとえば鉄道や電気・水道・食料品など人々のインフラになるようなサービスや、ハードウェアの製造と販売、Googleのような巨大Webサービスの運営は、大人数での協力が必要不可欠です。

一致団結し、大人数で力を合わせれば、とんでもないスケールとスピードで世界が革新されていくでしょう。 天まで届くほどのタワービル、定刻通りにやってくる地下鉄、都市を支える巨大なダム……そんな創造物を見ていると、人間の素晴らしささえ感じます。

あなたは、自分の命を何に使いたいですか? 老衰した自分が縁側で日向ぼっこをしながら「私はこれを作ったんだ」「これに無我夢中で、命を使ったんだ」と言っている場面を想像してください。 すでに、あなたが目指す世界と同じ理念を持つ会社がこの世に存在しているならば、その中でチームの一員として働くのがよいでしょう。

もし、自分の理念と一致する会社が見当たらないならば、自分が会社(個人事業主)になればいいのです。

たまに、目的と手段が入れ替わっている人を見かけることがあります。 どうやら、彼らの目的は「フリーランスになること自体」「起業すること自体」になっているようです。 これが危険なのは、独立してしまうとそれだけで目的が達成されてしまうことです。 そして、次のステップが見つからず、とりあえずで今ある「やとわれ型」の仕事ばかり請け続けてしまう……。 そうなりたくないなら、自分の理念・実現したい世界を言語化して部屋の壁に貼っておくことをおすすめします。 目的を見失わないよう、自分で自分の舵を切っていきましょう。

[column] フリーランスに踏み切ったきっかけは、ある上司の一言だった

前職は、社員十数名のベンチャー企業でした。 Webデザイナーとして入社し、そこでは素晴らしい上司に恵まれました。 ときに厳しくときに優しく、新入社員の得意なことを見抜いて成長を促してくれる人たちでした。

勤めて4年が経った頃、大企業に買収されることになりました。 新しい上司のT部長は親会社のまったく知らない人。 慢性的な人不足ではありましたが、特に褒められることもなく叱られることもなく、Webデザイン・コーディングの仕事をこなしていました。

あるとき、親会社の人たちがやってきて、T部長が同席した私を紹介してくれる機会がありました。 その時の言葉に私は耳を疑います。 「こちらは、こまごまとしたことをしてくれている湊川さんです」

ひよっ子ながらも自分のことをWebデザイナーだと思って5年間働いてきたのに、私はどうやら「こまごまとしたこと」をしている人らしい。 もともと、T部長とは週に1、2回しか顔を合わせる機会がなかったですし、T部長はエンジニア出身ではないので仕事の詳細を知らなかったと言えば仕方がないのかもしれません。 それにしても「こまごま担当」認定は、あまりに衝撃的でした。

ちょうど、拙著『わかばちゃんと学ぶ Webサイト制作の基本』発売直後の出来事でした。 個人で本を書いていることは、容認はしてもらっていたものの、社内ではあまり喜ばれませんでした。 「会社の仕事に集中しろ」というメッセージでしょう。 上手く使えば会社のブランディングになるかもしれないのに……。

一方、インターネット上ではお祝いムード一色でした。 「出版おめでとう!」「本、読みました!次回作も楽しみにしています!」 ツイッターやnoteでは、フォロワーさんから嬉しいコメントの数々が。

インターネット上の自分は「IT解説漫画家の湊川あい」。 かたや、社内の自分は「こまごまとしたことをしてくれている湊川さん」……。

その場は笑顔でやり過ごしましたが、一日が終わり、駐車場の車の中で涙が溢れてきました。 「どっちの自分として生きたいか」 泣きながら自分に問いかけました。

答えは明確でした。「IT解説漫画家の湊川あい」として生きたい、と。 そして会社を辞めるための下準備を始めたのでした。

[/column]

フリーランスのメリット・デメリット

フリーランスになろうと思えばいつだってなれます。 ただし「やとわれ」に依存しない、自立駆動型のフリーランスとして生計を立てることは至難の業です。

現役フリーランスから見た、フリーランスのメリット・デメリットは次のとおりです。

フリーランスのメリット

  • 仕事を選べる
    • 得意な仕事をやればやるほど、その評判を見聞きして、さらに得意な分野の仕事が寄ってくる
    • 逆に苦手な仕事をやればやるほど、苦手な分野の仕事が寄ってくるので注意
  • お客様を選べる
    • 会社員の場合「この人とは方向性が違うから一緒に仕事したくない」なんて言うことは許されないが、フリーランスならそれができてしまう
  • B to C な自立した働き方ができる
    • やとわれ型ではなく、自立駆動型の場合に可能な働き方
    • インターネットの浸透によって作者と受取手の距離が近くなった
    • 受取手の欲しいものを作り、直接購入してもらって生計を立てることができる
      • 例:Twitter上で読みたい解説漫画のアンケートをして、序盤は無料公開、続きはBOOTHで販売
  • 時間や場所に関係なく働ける
    • 自宅はもちろん、カフェやコワーキングスペース、旅行先、実家でも仕事ができる
  • オリジナリティを磨ける
    • 時間を集中して使い、ある分野に特化すれば「○○と言えば△△さん」という状態にできる
  • その時々で興味のある分野で働ける
  • 成果を上げれば上げただけ、年収が上がる
    • 会社員の場合はどれだけ頑張って成果をあげても、会社からの給与はさほど変わらない
    • 会社によるが、たいていの場合は昇給しても数万円程度
    • フリーランスは成果が出た分、そのまま収入に反映される
  • 中間マージンを取られない
    • クライアントと直接やりとりする場合、間に代理店が入らないので、制作費がそのまま入ってくる
  • 土日や祝日、朝の満員電車といった、混雑する時間帯をさけて行動できる
    • 平日昼の人が少ない時間を狙って快適におでかけしたり、役所に行ったりできる
  • うまくやれば不労所得を作ることができる
    • 働かなくても毎月一定額のお金が入ってくるような仕組みを自分で作る
      • 例:自作の有料アプリ、月額制Webサービス運営、オリジナルソフトのダウンロード販売、小説・漫画・解説本などの創作物のダウンロード販売、動画コンテンツの広告収入など

フリーランスのデメリット

  • 年金保険料が安い
    • 会社員の場合、基礎年金の他に厚生年金があるため将来もらえる年金額が大きい
    • フリーランスは第1号被保険者になるので基礎年金しかもらえない
  • 健康保険の負担率が高い
    • 会社員は「健康保険組合の保険」に入る
      • 保険料は会社との折半
      • 傷病手当金や育児休業給付金などがもらえるケースが多い
    • フリーランスは「国民健康保険」に入る
      • 保険料は、年間の所得額によって決まる
      • 全額自己負担
      • 傷病手当金や育児休業給付金はない
  • 住宅ローンを組むときや賃貸を借りるときに不利
  • 事務作業も自分でやる必要がある
    • 会社員の頃は経理や総務の人がやってくれていたことを、すべて自分でやる必要がある
  • 確定申告をやる必要がある
    • お金を払えば「税理士さんに丸投げ」もできることはできるが、自分の事業のお金の出入りや税金の仕組みを自分でも把握しておくに越したことはない
  • いくらでも働き続けることができてしまう
    • 会社と違ってストップをかけてくれる人がいない
    • 仕事がおもしろくて熱中しすぎてしまい、寝食を忘れ体を壊すことも
  • 逆に、いくらでも怠けることができてしまう
    • 自己管理ができないと厳しい
    • 「今日は丸1日ずっと寝てた」でも誰にも怒られない
    • 「今月は休みすぎちゃったけど、来月稼ぐから大丈夫」などと言い始めるとかなり危険
  • スケジュール管理が大変
    • 複数のクライアントを抱えれば抱えるほど、作業の優先順位が難しくなる
    • 急遽スケジュールが変更になることがある
    • 「来月納品でいいと言っていましたが、事情が変わって今月中にお願いしたいです」「一緒にお仕事するのは今月末までと伝えていましたが、好評なので来月も引き続きお願いします」等
  • 時給制や日給制で仕事を請けると、月収がそれ以上になることはない
  • いくら働いても利益が出なければ収入はゼロ、赤字になることも
  • 信頼を無くしたら、それ以降仕事を頼んでもらえない

いかがでしょうか。このように並べてみると、メリットに対してデメリットが目立つ印象ですね。

いきなり自立駆動型で生計を立てて行くのは、なかなか難しいかもしれません。 その場合は、やとわれ型と自立駆動型をミックスしたスケジュールを立てるといいでしょう。 具体的には次のとおりです。

  • 1週間のうち4日間は、やとわれ型として働く
  • 2日間は、自立駆動型のタネをまく活動をする(自作アプリを作る、オリジナルコンテンツを作るなど)
  • のこりの1日は、休日+スケジュールが切羽詰まったときのバッファ用

自立駆動型の活動が軌道に乗ってきたら、徐々にやとわれ型に使う時間を減らしていきます。 この場合、あとになって雇われ先のクライアントに対し不義理にならないように、事前に「一時的なお手伝いになること」「現在はやとわれで生計を立てながらも将来的には個人活動を主軸にしたいと思っていること」を素直に伝えておくことが大切です。 こそこそと個人活動をするのでは、精神的につらいですし、TwitterやFacebookなどで告知しづらいというブレーキがかかってしまいます。

理想的なのは、雇われ先の仕事内容と、個人活動の内容のベクトルが近いことです。 たとえば、個人活動としてVRアプリを作りたいが、iOSアプリの制作スキルはあってもAndroidアプリは詳しくないので、AndroidでVRアプリを出している会社の仕事を受注する、などです。 そうすると雇われている時間も個人活動のための技能を磨くのに活かせたり、逆に個人活動でネームバリューが出てくると「あの○○さんが関わっている会社」ということで会社自体の宣伝にも貢献しWinWinな関係を築くことができます。

会社を辞める準備をしよう

さて、フリーランスになる決意ができたら、今働いている会社を辞めることになります。 退職届の提出は、民法上では通常の正社員の場合「2週間前」でよしとされています。 とはいえ、ドラマのようにいきなり退職届を机に叩きつける、というのはいささか強引です。 ともに戦場をくぐり抜けた気心の知れた元上司・元同僚とは、今後も末長くお付き合いしたいところです。 うまくいけば、フリーランスになったあとも元いた会社から仕事をもらえるかもしれません。 実際「元いた会社が今の最大のクライアント」というフリーランスも見かけます。

辞め方って大切です。 世間は入社の仕方は教えてくれますが、辞め方は教えてくれません。 ということで、ここからは綺麗に退職する方法をお伝えします。

自分の夢を日頃から伝えておく 〜メンバーへの相談・周知〜

ただでさえ忙しく人手が足りない中、部下にいきなり「夢を追いたいので、会社辞めます」と告げられたら、どうでしょうか? 呆れて笑ってしまうか、何を考えているんだと烈火のごとく怒るか、どちらにせよ雰囲気が険悪になることでしょう。

最悪の状態に陥らないために、以下の3点を押さえておきましょう。

  • 常日頃から一生懸命仕事に取り組んでいること
  • 「この子には夢があって、実際行動を起こしていて社外でも頑張っているんだ」と認知しておいてもらうこと
  • 退職の意思は、できれば食事の席など穏やかなムードのときに「実は悩んでいることがあって……」と切り出すこと

夢については、1〜2年前から伝えておけると理想的です。 私の場合は、noteに解説漫画を投稿し始めた頃から、上司と社長に「いつか出版したいと思ってるんです」「会社でたくさん学ばせてもらっているから、その知識を体系化して解説漫画を描きたいんです」と伝えていました。 先輩や同僚にも、自分の描いた漫画や記事、フォロワーさんからの反応をiPadで見てもらっていました。

そのおかげか、会社が売却されて社長が変わるときに、元社長が新社長に 「湊川という社員がいる。この子は念願叶って出版社から声がかかり、今執筆中の本がある。商業出版は前々からの彼女の夢だから、社外活動にはなるけれど、これだけは認めてやってほしい」と言ってくれたそうです。 おかげさまで、子会社になったあとも休日に執筆活動を続けることができました。

辞めた後の資金源やクライアントを確保しよう

当然ですが、会社を辞めた後は収入はゼロになります。 毎月規則正しく振り込まれていた給料は、ピタリと止まってしまいます。

収入ゼロをさけるためには、辞める前から休日に副業をしておくのがよいでしょう。

たとえば、毎月の生活費が15万円の場合、ギリギリですが毎月20万円の収入があれば、最初の数ヶ月はなんとか生活できるでしょう。 会社勤めの間、土日の副業で毎月10万円ほど稼げていれば、会社を辞めた月からは最低でもその2倍の20万円は稼げます。 ただし、仕入れや材料費が必要な仕事の場合は、売上がそのまま入ってくるわけではないので注意が必要です。

フリーランスになってから追加で新しいクライアントのあてがあるのか、新しい設備や材料費など経費はどれぐらいかかりそうなのか、ある程度シミュレーションをしておきます。

いよいよ上司・社長へ報告しよう

フリーランスになっても生活していける算段が立ったら、まずは直属の上司に相談します。 一足飛びに、社長にいきなり直談判するのは避けましょう。なぜか?大人のお約束ってやつです。

「○○部長、お話があるのですが」と、切り出して他のメンバーがいない個室で話すようにします。 あくまでも冷静に、落ち着いてゆっくり伝えます。 このとき興奮して泣き出したり、今までの鬱憤をぶつけたりしないようにしましょう。

おそらく引き止められると思います。 いざこのときになって、急に会社が恋しくなるかもしれません。 上司の説得に納得がいき「まだこの会社で働き続けたいな」と思えばそのまま残ってもよいでしょう。

すべてはあなたの判断です。 説得されようと、やはり独立する意思が固いならば「寂しくなりますが、以前より心に決めたことですので」といった具合に、自分の決意が揺らがないことを伝えましょう。

会社のスタイルにもよりますが、その後社長との面談がある場合もあります。 心の広い社長なら、あなたの新しい門出を応援してくれるかもしれません。 緊張しますが、ここまで来たら大丈夫です。

今までお世話になったメンバーにお礼を言い、菓子折りやプチギフト、お手紙などを配ると和やかにお別れできます。

開業届を出そう

円満に退職できましたか? いよいよフリーランスとしての1日目が始まります。 まずは役所に個人事業主として登録しましょう。

開業届はなぜ必要? 税務署に開業したことを伝えるため

個人事業主になると、事業から生じた利益に対しては所得税が課されます。 事業規模が大きい場合は個人事業税や消費税も納税する必要があります

  • 所得税・消費税

    • 国税として税務署に納めるもの
  • 個人事業税

    • 地方税として各都道府県税事務所に納めるもの

開業届の提出は「それぞれの税務当局に対して、開業したよと報告する」という役割があるのです。

開業届はどこで提出できるの? 提出期限はある?

個人事業の開廃業届出書

開業届には2種類あります。 まず1つ目は「個人事業の開廃業届出書」です。これは納税地を所轄する税務署に提出します。 原則として、開業してから1ヶ月以内に提出しましょう。

届出書は、国税庁のWebサイトからダウンロードして郵送で送ることもできますが、 初めてのことで正しく提出できるかが不安な場合は、最寄りの税務署まで直接出向くのがよいでしょう。

事業開始等申告書

都道府県税事務所に対する届出書です。 前述の「個人事業の開廃業届出書」は所得税などの国税の納付を宣誓するものに対し、こちらは個人事業税等の地方税の納付を宣誓するものです。 地方自治体によって提出期限は異なります。例として、東京都の場合、開業から15日以内に提出する必要があります。 提出先は、所管区域の事務所になります。(例:品川区の個人事業主ならば、品川都税事務所に提出する)

開業届のメリット

  • 青色申告ができるようになる
    • 節税効果の高い青色申告で確定申告ができるようになる
    • 開業届と合わせて青色申告承認申請書を提出する必要あり
  • 屋号(法人で言うところの会社名)と、事業用の銀行口座を作ることができるようになる
  • クレジットカード審査の対策になる
    • きちんと開業届を税務署に提出していることが信用につながる

開業届を提出するときの注意点

開業届を提出すると、失業手当がもらえなくなります。 開業届を提出した瞬間、仕事を探している状態ではなくなるからです。 収入の目処が立っていない場合や、再就職を迷っている場合は、よく考えてから提出するようにしましょう。

確定申告をしよう

私は対象? 確定申告が必要なケースとは

会社員だと、所得税の計算は経理担当の方が鮮やかに計算してくれますよね。ところが、副業をし始めたり、即売会の収入が多くなると、その分を自分で計算して税務署に提出する必要があります。

勘違いしやすいのが「副業の所得が20万円以上」という言葉の捉え方です。収入が20万円以上、ではありません。「え?同じじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。 副業/個人事業主の所得税は 収入 − 必要経費 = 所得 で計算します。 所得とは、一年を通して売ったり買ったりして結局手元にどれくらお金が残ったか、ということだと考えればわかりやすいですね。この手元に残った金額を元に、所得税を算出するわけです。 たとえば副業で、年間を通して即売会で25万円売り上げた場合、印刷費や材料費といった必要経費に10万円かかっていれば、所得は15万円で、確定申告の必要はなくなります。

税務署に提出する時期は、基本的に毎年2月中旬から3月中旬までです。 たとえば2019年度の場合、2019年の1月1日〜12月31日の間を計算した結果を、2020年2月17日(月)〜3月16日(月)の間に提出します。

この本を読んでいる方の中には、将来フリーランスになることを見据えて、副業でも収入を得ている方もいるでしょう。 1月1日〜12月31日の副業の所得の合計額が20万円以上になりそうなら、事前に諸々の準備を進めていく必要があります。

税理士を雇うか、確定申告ソフトで済ますか

税理士を雇うか、確定申告ソフトを使って自分で管理するかのどちらかになります。

青色申告を税理士に丸投げする場合、つまり仕分けからお願いする場合の相場はいくらぐらいなのでしょう? 税理士によって差がありますが、1年あたりの売上が500万円未満であれば10万円、 500万円以上1000万円未満は15万円、1000万円以上では20万円程度と言われています。

対して、ソフトを使う場合は1年あたり1万円程度です。 代表的な確定申告ソフトと料金プランは次のとおりです。

  • マネーフォワードのクラウド確定申告
    • フリープラン:0円
    • 有料プラン:11,760円(年)~
  • クラウド確定申告ソフト freee
    • お試しプランあり
    • 有料プラン:9,792円(年)~
  • やよいのオンラインシリーズ
    • 白色申告:0円(年)~
    • 青色申告:8,000円(年)~(初年度0円)

筆者は「マネーフォワードのクラウド確定申告」を使っています。 理由は、もともと家計簿としてマネーフォワードを使っていたので、連携が簡単だったからです。

クラウド会計ソフトを初めて使う人でも、クレジットカードや銀行口座を登録すればあとはほぼ自動で記帳されていくので楽チンです。 確定申告の時期になれば、「申告書を作る」みたいなボタンが現れるので、ガイダンスに沿って必要事項をちまちまっと入力。 ポチッと生成ボタンを押せば、そのまま税務署に提出できるPDFが生成されます。

1年目からバンバン稼いで、税理士を雇うお金以上に節税が期待できそうならば、税理士を雇うという選択もよいと思います。 が、個人的には「まず一年目は確定申告ソフトで様子を見てみる」のがいいんじゃないかな、と思います。 お金の流れや帳簿の仕組みもわかりますし。自分の事業ですから、ブラックボックスにはしたくないですよね。

[column] 法人化の境界線

年間利益がいくらぐらいになれば法人化した方がよいのでしょうか? 年間利益が500万円以上ならば法人化した方がお得だとか、いやいや700万円以上になってからの方がいいだとか、様々な見解があって迷ってしまいますよね。 それもそのはず、法人化による節税の有利不利は一概に判断できるものではなく、経費・仕入れ金額の割合や、自身の給料にしたい金額によって大きく変動します。

一番いいのは税理士に相談することですが、まずはWeb上で簡単に診断することができます。

個人事業主は税務署に開業届を出すだけで、びっくりするほど簡単に始められました。 一方、株式会社を設立する場合は登記が必要なので、最低でも20万円程度の費用がかかり、さらに資本金も用意する必要があります。 法人であることで対外的信用がアップする、欠損金を10年間繰越できるなどメリットがあるのはもちろんですが、 デメリットもありますので、自分の事業が軌道に乗ってきたら、そのスタイルに合う方を選択していきましょう。

[/column]

[column] 実家住みフリーランスの生存戦略 @mottox2

実家に住みながらフリーランスでエンジニアをやっている、もっと(@mottox2)です。本コラムでは都内の実家に住みながらフリーランスをやっている立場から、実家で暮らすメリットやそれを生かした立ち回りを紹介します。

実家に住むメリットはたくさんありますが、一番のメリットは固定費が安くなることです。フリーランスは毎月決まった額が得られる保証はありません。なので、毎月固定でかかる家賃の負担が減るだけで安定し、危機感を持つことなく仕事に打ち込めます。固定費が少なければ、稼がなければならない額も減り、万一仕事がなくなってもどっしりと構えて次の仕事を見つけられます。

金銭的な面以外でもメリットはたくさんあります。自立駆動型のフリーランスの場合、自宅で働くと人と話す機会がなくなりますが、実家であれば話す相手もでき、一緒に食事を取ることで最低限のコミィニケーションが担保されます。また、一人暮らしであれば無限に怠けたり、無限に仕事を続けたりできますが、家族がいることでバランスの良い働き方に近づくはずです。 健康的な面でも、バランスのよい食事で体調が崩しにくくなることで、納期超過を防く・稼働状況がよくなる等の効果があり、結果的に信頼も失いにくくなります。フリーランスは会社員以上に体が資本なので、重要な観点だと感じています。

実家暮らしであればこのようなメリットを得ることができます。また、実家が都内ではない人でも、シェアハウスなど複数人で同じ家に住む場合にも当てはまるものだと思っています。

ただし、一緒に暮らす上では仕事にのめり込み過ぎず、家事の一部を引き受けることをオススメします。お世話になる分はちゃんと恩返しの気持ちを持って、家事を引き受けましょう。デスクワークの仕事である場合は座りっぱなしになるので、体を動かす種類の家事を引き受けるといいでしょう。

家事負担や家賃負担を抑えた状態を活かすとスキルアップや別スキルの習得、仕事外コミュニティへの支援等の活動に時間を使えるようになります。 フリーランスは自分の生活を安定させるために、できるだけ多くの案件を請けるムーブになりがちです。しかし、家事・家賃負担がなければ、案件を選ぶ余裕ができ、長期的なスキルアップに時間を使えるようになります。

自分の例ですが、一年間収入を減らしながら、勉強やOSS活動に時間をあて、翌年には単価を上げることができています。お金が発生しない活動に、時間を投資するのは不安でしたが、実家住みで「危機感のない状態」を作れていたことが選択を後押ししてくれました。

世間的には「一人暮らししたら一人前」といった考え方もあるようですが、フリーランスをやっていく上では、かなりの実利を得ることができます。かなり自分固有の部分もありますが、人と暮らしてリスクを減らすことは多くの人に当てはまるものだと思います。リスクを減らした上で、いい仕事につながる取り組みをやっていきましょう。

[/column]

1人でやるからこそ、信頼残高を大切にしていきたい

「人付き合いが苦手だから、1人で気ままにやりたい」 「フリーランスならその点、ラクで良さそう。多数の人とコミュニケーションしなくていいし」 ……本当にそうなのでしょうか?

フリーランスはいわば「1人会社」。つまり、営業や広報、細やかな連絡・相談、納品書を送るなどの事務手続きも自分でこなす必要があります。

「納品が遅れる」「返信が遅すぎる」などの失態を犯すと、次回から仕事を頼んでもらえなくなります。 さらに「この前、Aさんに仕事頼んだけど、散々だったよ」と悪い評判が広まってしまい、今後顧客になってくれるかもしれなかった人の信頼さえも失う、なんてことも……。

会社員の時は、自分の専門の仕事だけに集中できたり、粗相をしても上司が責任を持って尻拭いをしてくれたりします。 でもフリーランスになると守ってくれる人はいません。 自分1人でやるからこそ、総合力が試されるのです。

かく言う私も、自分のキャパシティー以上の仕事を請けてしまって、クライアントさんにご迷惑をおかけしたこともあります。 本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。失った信頼は戻ってきません。 もちろん会社員でも同様ですが、フリーランスになると、より「個人名」にフォーカスされます。 気を引き締めて行きたいところです。

おわりに 〜「独立」して「世界に関わる」〜

「独立」という字面だけ見ると、さも1人の力だけで立って歩いていくようなイメージがあります。 ところが、いざ独立してみると「いくら1人で仕事をしようと、必ず人間と繋がる」ことに気付くでしょう。

仕事を頼んでくれる人や、自分の作ったものを使ってくれる人。 イベントに来てくれる人、アドバイスをくれる人、コミュニティでできた友人……。 実は私たちは、たくさんの人、たくさんのご縁に支えられているのです。

「この世界はデバッグだ」という言葉があります。 この世界という大きなシステムに対して、自分なりにいろいろと試してみる。返ってくる反応から、また次のコードを書いて試してみる。 世界から返ってくる反応を楽しむことです。

この世界と関わろうとすればするほど、自分に何ができるのか、どんなことが喜ばれるのかが明確になってきます。 最初はぼんやりしていても大丈夫です。ボールを打っている間に「こっちからは反応が返ってくるな」「あっちからは返ってこないな」と、徐々にその輪郭が見えてきます。 世界によって、相対的にあなたの価値が再構築されるわけです。

フリーランスになりたいと思ったら、ぜひ「独立」とセットで「世界に関わる」ことを意識してみてください。

[column] まずは副業から始めよう

などと偉そうなタイトルをつけたものの、フリーランスでもなんでもなく、単なる社畜のおやかたです。

ですが、学生の頃に一度起業もしたこともあり、会社員のかたわら、同人サークルのサークル主をしております。結果として、どちらも本業にすることはなく今に至るわけですが。

フリーランスを考えている方に向けての蛇足的なコラムです。

独立する前に副業としてしばらくやってみることをお勧めします。理由は三つほどあります。

(1)今ある身分が保険になる

保証された身分というのは最強の保険です。なぜなら、独立する予定の内容がうまくいかなければやめて戻ればいいからです。不退転の覚悟で起業します、と言えば聞こえはいいものの、無用なリスクを取っているという側面もあります。また始める前に想定していたほどうまくいかないかもしれません。ビジネスモデルに無理があるのかもしれません。がむしゃらに働く必要がある時期もあるかもしれませんが、常にがむしゃらに、それこそ過労で身体を壊すほどの状況が続くような無理はそもそも成り立ちません。想定していたより実質賃金、時給が低くなってしまうかもしれません。それをお試しでやってみるのが副業です。副業で半年1年やってみてうまくいくなら会社をやめてそちらに専念する、ダメそうなら仕切り直す、という選択を頭の隅においておくと、それが保険になります。

(2)副業でどれくらい戦っていけるかのお試しができる

実際にその仕事がどれくらいの稼ぎになるのか、ということについてのお試しができます。かけられる時間は限られていますから、フルの稼ぎにはならないかもしれませんが、月にx時間投下してy円の稼ぎになったので、フルタイムでやったらこれくらいの稼ぎになるなー、という算定が一応可能です。さらには、稼ぎの話だけでなく、所要時間の見積もりもできるでしょう。クライアント探しなども可能かもしれません。

(3)時間の使い方が上手くなる(場合がある)

副業としてやってみることで、普段の業務をこなしつつ副業もやることになるため、一時的に負荷は上がりますが、しばらくすると双方効率化できます。例えば、本業の拘束時間がもともとは8時〜20時の12時間だったところが、本業を効率化して定時で上がれるようになり、仕事後の4時間を副業に注力するようになる、といった具合です。10時間の本業に2時間の副業でもいいかもしれません。そこで(比例計算で?)稼げることがわかったら独立できます。

あるいは、そこまでできるなら、独立しないで副業として続けるという選択肢も出てくるかもしれません。フリーランスとして独立するばかりが幸せの道ではないというのは本当にそうだと思います。あるいは、副業でもここまで行けます、といった形でのブランデイングも可能かもしれません。

以下、蛇足の蛇足です。

会社と副業の関係

副業としてやってみようと考えた時、まずは就業規定を確認しましょう。副業は禁止すると明記されている場合、何も書いていない場合、他団体に属することに関しての規定がある場合、などがあります。規定によりケースバイケースですが、基本的には業務時間外の活動までを就業規定で拘束することはできませんから、副業そのものを完全に禁止することはできません。副業の定義にもよりますが、例えば収益をあげることと定義した場合、転勤中に持ち家を貸し出す大家業や、株やFXなどによる投資なども副業と見做すことはできます。ではそれを就業規則で縛ることができるかというと当然不可能ですよね。

一方で、会社の情報を流出させるなどは副業という以前に法的にもNGなのは当然ですよね。また、副業のせいで昼間は居眠りをしているなども、就業規定における「業務に専念すること」という規定に反するのでNGです。風当たり、あるいは独立にあたって無駄な遺恨を残すことにもつながります。では、会社で得た技術や知識を用いてお金を稼ぐことはどうでしょう。こちらはケースバイケースになります。例えば、会社で使っているルールや言語に関する技術同人誌を書くことなども該当する可能性がありますね。こちらは後述します。

さて、副業での収入も確定申告は必要ですが、住民税の額などから会社にバレることがあります。

会社員の場合、給料から天引きで、会社が従業員に代わって住民税を納める「特別徴収」制度が適用されています。これを「普通徴収」に変更すると、住民税の納付書が自宅に送付され、会社に住民税の額を知られることがありません。普通徴収に変更したいときは、確定申告または住民税の申告時に、申告書類にあるチェック欄から「自分で納付」を選択します。これで会社にバレるリスクを減らすことができます。もちろん、他ルートから会社にバレても、会社とは関係ないし、会社の情報、リソースは使っていませんよ、というのは自信を持って言えるようにしておく必要はあります。

同人誌を書く

副業として、技術同人誌を書くという副業はとってもお勧めです。自分の持つ技術の棚卸をしつつ、内容や対象読者を選定・考えるというマーケティング的なことも入り、さらに自分の実績が増えるといういいことづくめです。それでいてかかる費用は印刷費数万円とイベント参加費などのみ。自分の本があるということは、自分の名刺として極めて強い武器にもなります。

会社で使っているルールや言語に関する技術同人誌を書く場合、業務、会社の秘密に絡まないように注意する必要があります。心配なら法務などに相談したらいいですよ、と言いたいところですが、そういうことを気にしなければならないような会社でそういうことをするとやぶ蛇になる可能性の方が高いでしょう。実際の案件や関係者を特定するような事象には絡まないように十分に注意するなどの自衛が重要です。

なお、そういう活動をしているということが会社に知られたとして、もし「そんなくだらない/意味のないことをやってないで業務に専念せよ」などということを言われたら、その時はその会社を見限るチャンスなのかもしれません。。。

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