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オンラインで合同誌を作ろう

外出できないときは、本を書いてみましょう。アウトプットの一つの形態として、技術同人誌を書くのです。

当サークルでは、様々な合同誌を作っていますが、その作成の一幕をご紹介します。複数の執筆者の原稿を集めて一冊の本にする「合同誌」の作成ノウハウおよびそれを支える執筆技術についてのご紹介です。

もちろん本章をあなたの合同誌作成の参考にしていただきたいという側面もありますが、もし一人で単著を作るのがハードル高いと思ったら、その時は親方Projectの本に寄稿いただけませんか?あなたの知見をあわせることで、これから生まれてくるであろう本がより強い本になります。

なお、合同誌の作成ノウハウは、「ワンストップ合同誌を作ろう」にもまとめてあります。一部重複する部分もありますが、特に本書のテーマであるオンラインという観点に重点を置いて整理します。ワンストップ合同誌を作ろうも、合同誌作成ノウハウを深くまとめた価値のある本だと自画自賛していますので、ぜひお手にとっていただければ幸いです。

https://oyakata.booth.pm/items/1315194

合同誌とは?

ここでは、複数人が原稿を持ち寄り、一冊の本に仕上げる形を想定してください。書店にも並んでいる雑誌をイメージしていただければ良いでしょう。トランジスタ技術やSoftware Designなどのように、ある程度共通のテーマがあって一冊の本になっている形です。ジャンプなどのマンガ雑誌のように、別々のテーマの記事を集めたような形態は除外します。

[column] ジャンプ型合同誌

本論では除外したジャンプ型合同誌ですが、企業や大学サークルの活動紹介本としては大いに結構です。企業としての理念や活動状況、働き方や社員の紹介としての合同誌は、その会社の魅力やスキルを雄弁に語ることでしょう。また合同誌を作るという活動そのものが外向きの活動です。そういう活動に理解のある会社という非常に強力なアピールになることでしょう。

そして、同人誌発行にかかる費用は数万円から十数万円程度です。投資対効果という意味では下手な所に広告を打つよりよほど安価に効果を発揮することでしょう。

大学などのサークルの活動実績報告としての側面でいえば、同人誌を作って頒布することでまずは、活動をアピールすることができます。活動の実績を明文化する、あるいは本という形に残すことで、自分たちでふりかえる、あるいは数年後数十年後の後輩たちが過去の活動はどうだった、という形で見てもらうことができます。そして、「自分たちの技術をマネタイズする」ことができ、活動費として実利を得ることもできるでしょう。

いずれにせよ、できるだけ幅広い人に届けたいという意味において、ジャンルやテーマを限定しないジャンプ型合同誌も強力な武器になりえます。

[/column]

ある一つのテーマについて、複数人で様々な内容の記事を集めた合同誌は、確実に一人で書くより強い本ができあがります。企画者一人では書けない、カバーできない内容についても、他の人の知見を加えることができます。同じテーマであっても、著者それぞれで経験したこと、使い方、切り口が異なりますから、全く同じ内容にはなり得ません。それだけカバーする範囲が増えます。カバーする範囲が増えるということは、それだけ強い本になるということです。

そして、人数が増えると、参加のハードルが下がります。極論すれば1ページからでも寄稿が可能になります。これは合同誌のレギュレーションによりますが、当サークルの合同誌は、1ページ、コラム1本からでも寄稿可能としています。参加のハードルを下げることで、執筆者を見つけやすくなりますし、最悪参加者の一人や二人が原稿を落としても本の大勢には影響ありません。執筆者にとっても、在庫リスクを下げつつ執筆できたり、イベント申し込みなどのハードルを大きく下げることができます。もちろんそのあと、単独サークルとして独立していった人を何人も見ています。

ネタ出し

技術同人誌を作るときの最初のハードルは、ネタ出しです。企画立案、テーマ決定といいかえてもよいでしょう。

特に合同誌においては、ネタが決まらないと、著者募集もできませんし、目次も決まりません。一人で考えていてもあまり良い案は出てきません。考えて出てくるならとっくに出ているはずです。そこで使うのが、オンライン飲み会や(オフライン飲み会)あるいはSlack等での雑談です。

飲み会、懇親会で数人で話をしているときの会話の内容はネタの宝庫です。通常時であれば、オフラインの飲み会での会話の中にネタのタネが含まれています。それをメモしておいて忘れないようにします。

オンラインでも基本的には同様です。オンライン飲み会や、Slackの雑談チャンネルで雑談をしながら、ネタになりそうな内容を探します。

気心の知れたエンジニア・友人と話をしながら、最近興味のある話、困っていること、知りたいことなどについて、盛り上がったネタをメモしておきます。

ある程度広くの人にささり、かつ一家言持っているネタ、あるあるネタや経験があるようなネタが合同誌に向きます。複数人で原稿を持ち寄るからこそ、強い本ができます。この世の中に生み出された本はすべからく尊いものです。ですが、一人で書く限界というものはやはりあります。知識、経験でカバーしきれない範囲、あるいは執筆時間の制限があります。それを複数人で書くことでカバーする範囲は確実に増えます。

さて、本になるかも、と思ったネタがあった場合、どこかに記録しておきましょう。私の場合は、合同誌の相談(+雑談)のためのSlackを作ってあり、そこに著者みなさんがいるのですが、そこに#次の本のネタというチャンネルを作ってあります。ここにメモとして投稿しておくことで、他の人からそれいいねとか、こういう切り口はどう?などのコメントがつき、自然とブラッシュアップされます。

飲み会や相談はオンライン、オフライン問わずその場限りの会話になってしまいます。お酒が入っていることもあり、忘れてしまうことも少なくありませんが、せっかくよいネタのタネがあるのですから、それをそのまま埋もれさせてしまうのはもったいないです。ちゃんと拾い上げて、著者がたくさんいる苗床に植えてやることで、いくつかはきちんと芽吹きます。もちろん全てが芽吹くわけではありませんが、蒔かないタネは生えません。虚空に消えたタネが日の目をみることはありません。せっかくよい話をしているのに・・・もったいないですね。

そして、ある程度テーマが固まったところで、Hackmd.ioやesaなどの共同編集可能なメモが作れるところに目次検討用メモを立ち上げます。関係者皆で目次案を出し合うことが重要です。例として、本書、ワンストップオンライン生活の目次メモのリンクを貼っておきます。

https://hackmd.io/yqNnVcuPTWCtNsR5-5cywQ

重要なのは、みんなで編集可能という点です。自分が本文をかけなくとも、「こういう内容があったほうがいいんじゃないか」というアイディアを共有することができ、さらにそれを見た誰かが、それなら俺書けるわ、と書いてくれる可能性が生まれます。そうして網羅性の高い本になっていきます。

執筆者集め

LTのテーマとして、技術同人誌執筆のメリットなどに関することを喋ることが多い私です。したがって懇親会などでは技術同人誌を書きませんか?と声をかけている人という認識をされることが多いので、書いてみませんか?という声かけが非常にやりやすいです。

なにか書いてみませんか?と声をかけたとき、大抵の人は「興味はあるけれどかけるネタがない」「興味あるネタはあるけれど初心者だから難しいです」といった回答が大抵返ってきます。それに対して、普段使っている、今興味があるネタで十分に書けるでしょう。初心者だからこそつまづく部分困る部分があるから、そこを本にすると刺さる人は絶対にいる、などといった形で沼においでおいでします。その結果が、「妖怪本書いてけ」な訳ですが、それはともかく。

オフライン(直接顔を合わせている状態すなわち勉強会の懇親会や飲み会)などでは直接「書いてみませんか?」と声をかけることもできますが、オンラインではそうはいきません。やはりそういった形で直接声かけをしたり、深掘りしてネタを引き出すということはやはり難しいため、著者を集めるのはオフラインより大変です。

ですが、オンラインならではのツテを頼って、これまでに書いてくれた人、およびその知り合いに声をかけます。オンライン飲み会で企画を話してみる、雑談タイムに振ってみる、あるいは興味ありそうな友人に声をかけてみるなど、ここでの努力があとで身を結びます。声をかけたその時にはすぐに結果が出なくても、後日ふらっとまだ間に合います?といって参加してくれる人は結構な割合で存在します。

また、Twitterなどで自分の本に言及してくれている人、あるいは書きたい、という意思表示をしてくれた人にメンションを飛ばすといったことも、執筆者を集める上では非常に有効です。

そして、興味がある人が見つかったら、説明Blogとともに、先に述べた共同作成した目次メモを見せて、「この中のどれかについてかけないだろうか?」というお誘いをします。目次が具体的であればあるほど、それな書けるや、と思ってもらえる可能性は上がるでしょう。  

執筆環境構築

オンラインかつ複数人での執筆が前提となりますので、原稿集約はクラウドを使うと便利です。親方Projectの合同誌は、Markdonwnで作成した原稿ファイルをGitHubにて管理して、Re:VIEWおよびEasyBooksを使って組版をし、CIでPDFを生成するという環境構築が済んでいますから、原稿の集約から推敲・校正までがオンラインで完結する環境になっています。

Markdownであればこの界隈の人は大抵使えますし、プレーンテキストやWordなどでも、メールやSlackなどで共有し、編集長がコンバートすることによって原稿に組み込まれます。

また、執筆相談兼雑談用のSlackがあり、日々ワイワイやりながら原稿の相談、困ったことの相談などをやっています。中身や構成、アイディアに困った時の相談や、ここ誰か書けませんか?それなら私が!といった相談、あるいは完全な雑談も含まれます。

複数人で執筆していますが、全員がGitHubのMember権限を持っています。Member権限は、プルリクエストのマージやMasterブランチへの直Pushが可能な権限です。その上位は管理者(Owner)ですが、リポジトリ自体の削除も可能となってしまうため、基本的には編集長のみの権限としています。

Masterブランチへの直Pushは、ソフトウエア開発においてはあまり褒められたお作法ではないそうです。しかし、技術書執筆においては状況が異なります。次のような理由により、少なくとも私が関わっている合同誌においては、むしろMasterへの直Pushを推奨しています。もちろんできる人はブランチ切って後からマージするということも可能です。

  1. ソフト開発のような見えづらいバグが混入する可能性はほとんどないのでCIで確認すれば良い。
  2. Masterでやっておけば、コンフリクトの対応もシンプル。
  3. ブランチを切るなどのGitの操作に慣れない人もシンプルに操作可能
  4. こまめに進捗を見ることができ、誤字脱字などのレビュー、修正が容易
  5. CIによるオンラインでのPDFの確認も可能なので、ローカル環境の構築も不要、環境差によるトラブルも無縁

こうして、執筆者、寄稿者が執筆に集中できるような環境を整えた上で執筆を進めましょう。

締め切りの設定

編集長の最も大切な仕事が、締め切りの設定とスケジュール管理です。ネタだしや企画立案の重要度は二の次です。ちなみに、2番目に重要なお仕事は、発行物に対して責任を持つ、です。内容に問題があったときの全責任と、売れ行きに対する責任を負います。予想より売れ行きが悪かった場合の赤字リスクと、在庫を維持するリスクです。

編集長の最も大切な仕事が、締め切りの設定とスケジュール管理です。大事なことなので2回言いました。入稿日から逆算して、スケジュールを立てます。

入稿日は、印刷所によって若干異なりますが、たいていの印刷所で、「早割り」締め切り日と、「通常」締め切り日というふたつ、あるいはそれ以上の日程が記載されています。その中で見るべきは、「早割り」締め切り日であり、それ以外は無視することを強くお勧めします。通常締め切り、あるいは割増締め切りなどという記載があったとしても、それは決して見てはならないものである!と考えてください。

理由はいくつかありますが、締め切りを早割のラインに設定することで、作業のバッファを数日確保することができる上に、印刷費を大幅に(20%程度)圧縮することができます。合同誌作成においては、早割入稿締め切り日の1週間前、できれば2週間前に締め切りを設定しましょう。後述するように執筆が終わっても入稿可能なPDFファイルを生成するためにはいくつかの手順が必要になり、そこでつまづくことも少なくありません。また割り込みにより時間が無くなる可能性もあります。そういう意味でも入稿直前のバッファの確保は重要です。

それでは、入稿予定日が決まったら、いよいよ執筆スケジュールを決めましょう。さきほど定めた入稿予定日から、入稿までの日数を数え、それを4分割して、次のように定めます。このスケジュールは執筆者にわかりやすく周知します。マイルストーンである、①目次締め切り、②初稿提出日、③追記締切日、④最終締切日といった形で設定し、説明Blog等に書くと良いでしょう。それそれが以下のマイルストーンに対応します。ただし、最終締め切り以外は、あくまで目安、マイルストーンであり、それをすぎたら追記、追加できないというものではない、ということは明示しておきます。むしろSlackなどでは、まだ全然かけるよ追記できるよ、と常に言い続けましょう。

最初の1/4 執筆を始める前の準備(①目次締め切り)

最初の期間は、目次の作成および外部への依頼に充てましょう。書きたいことを整理し、目次として整理します。とある編集者は、「目次ができたら半分以上完成したも同然である。」といっていますが、目次を最初に構成することで、全体の作業量が見通せたり、本の対象読者を設定するなどの本のコンセプトにかかわる部分を明確にすることができます。

この最初の期間のなかで、外部への発注を済ませておきましょう。ここでいう発注とは、寄稿の依頼、共著者への指示、表紙イラストやデザインの依頼など、自分以外が関わる内容すべてです。余裕をもって外部に依頼することで、関係者の負荷を下げ、よいものができあがる可能性が上がります。特にイラストやデザインを依頼する場合は、できるだけ早めに動き、イラストレーター・デザイナーさんの負荷を上げすぎないよう注意する必要があります。

依頼という意味では、この段階でレビュアーを探してお願いすることができると、最終的にできる本のクオリティは一段階も二段階も上がるでしょう。なお、技術レビューと文章レビュー(校正)は区別してください。

また、ここで入稿用ファイルの生成を一度行って置いたり、プリンターの購入等の校正や入稿にかかわる準備をこの段階で進めておくとよいでしょう。入稿用ファイルの生成は別のツールを使ったり、確認すべき事項があるなどして、執筆が終わったら完了という状態にできない場合があります。これらの作業を入稿直前に初めてやろうとすると、たいていの場合でどこかにハマってしまい、予想外の時間を食われてしまうといったことが生じえます。仮目次だけでも構いませんし、ダミーのページでも構いませんので、入稿用PDFを生成してみる、印刷してみる、といった形で入稿作業の確認もしておきましょう。この時点で不明なことがあれば、身近にいるであろう経験者に聞いてみる、確認してもらうといった対応策も取ることができます。

中盤 2/4 とにかく書く( ②初稿締め切り)

4分割の2番目は、とにかく原稿を書く時間に充てます。

目次はすでにある程度組み立てられているという状況ですから、とにかく手を動かして、骨組み(目次)に肉付け(文章であり、図表であり、コードを書く)していきます。

ここで、画像の張り込みなどは都度実施するようにし、画像貼りこみで突然困ったり、コンパイルエラーなどにより二分探索をやるといった大幅な手戻りが生じることがないようにできるとよい進捗が得られることでしょう。

調査を終えてから書こうとすると、手が止まりガチになり進まなかったり、本文に盛り込まれない内容について深堀してしまって無駄になったりすることがあるので、執筆と技術調査・背景や資料確認は並行して進めることをお勧めします。調査不足な部分があったとしてもとりあえず書いてしまえばよく、書きながら足りない部分が明確化されるので、足りない部分についてつど調査すれば調査と執筆を効率よく両立することができます。また本文中で説明するコードについても、コードは書けたが本文を書く時間がなかったといった事態を避けるためにも、コードができてから本文を書く、といった方法は避けたほうがよいと考えます。とはいえ、執筆スタイルは人による面はありますので、書きやすい方法が一番です。

後半 3/4 ゴールを見据えて(③追記締切日)

そろそろ全体の形が見えてきます。執筆を進めつつ、全体を見渡して足りないところの追記について考えます。また全体を読んで誤字脱字の修正を行います。このあたりであらかじめお願いしていたレビューの依頼ができるとよいでしょう。特に技術的なレビューをこの段階でお願いすることで、不足している内容に対する指摘をもらうことができ、かつ方向修正が可能です。客観的な指摘というのは非常に有用です。筆者の勘違いや最新状況の変化、あるいはミスなどを修正することができます。特にこういった間違いは執筆者にはわかりづらいところですから、客観的な目が何より有効です。

なお、執筆にあたっては、無理は禁物です。締め切りが近づいてくると、執筆スピードが上がってきます。締め切り駆動執筆という言葉もありますし、ニンゲンというものは締め切りがないとやる気がでないものです。とはいえ、ここで決して無理しないようにしましょう。体調を崩しては元も子もありません。特に慣れないカフェイン錠を使うなどの無理をするとか、徹夜するなど、命を燃やして本を作るというデスマーチは絶対に避けましょう。趣味だからこそついやってしまいたくなるのはわかりますが・・・

さて、締め切り駆動のための最大のバッファーは、最初に締め切りを早割日のさらにその前にに設定した時点で確保されています。予定日と早割締め切りの間の数日、そして早割と通常割りの間の数日がそれです。見積りのずれ、突発の割り込みなどがあっても、回収可能になります。

最後の仕上げ 4/4 入稿準備(④最終締切日〜入稿日)

最後の仕上げのフェーズでは、pdfの出力、印刷しての誤字チェック、体裁チェックを行います。このとき、プリンターがあるのとないのでは作業効率が決定的に異なるので、技術同時誌を作ろうと思った人はぜひプリンターを、特にレーザープリンターの入手をおススメします。画面を見ながらの校正ではなく、印刷して赤ペンを入れるのがいちばん手っ取り早い校正だとおもいますので、ぜひやってみてください。

校正が終わったら最後は入稿です。入稿に関する準備は、慣れないうちは(あるいは慣れてきていても)ハマりポイントが多いので、十分に時間を確保しておく必要があります。その時間を確保するために最後の仕上げに全体工程の1/4の時間を確保することをお勧めします。

とはいえ、校正は重要な作業ではありますが、特に同人誌であれば、てにをはや細かい誤字脱字の修正はある程度割り切ってもよいと考えます。通常読んでいるときは脳の自動補完機能で多少の誤字脱字は気にせず読み飛ばしてしまうので、むやみに校正に時間をかけるくらいならば、中身と分量の拡充に注力するとよいでしょう。

本が入稿でできたところで、告知に移ります。告知をしないと、あなたがどんな本を書いたのか知る人がいません。当日会場でふらっと前を通りかかって買ってくれる人もいることはいますが、知らなければ入手することはできません。いかに読者に刺さる本であっても、その人に情報が届かなければ、その人に届きません。知っていたら買ったのに!という声が多数出てくることになります。本項ではこれ以上触れませんが、是非告知に注力してください。Twitterで完成を告知する、試し読みを公開する、勉強会などで紹介する、いろいろやってみるとよいでしょう。

裏とおもて(公称)の締め切りを駆使する

ここまで時系列的に説明しましたが、締め切りの設定について改めて述べます。人間というものは基本的に締め切り直前にならないとやる気が出ません。締め切りまでいくら時間があっても、作業が進むのは締め切り直前、なんなら締め切りを超えてからです。これはオンラインオフライン関係ありません。

最初に入稿予定日を早割締め切りの1週間前、できれば2週間前に設定する、といいましたが、実は、寄稿者にアナウンスする最初の最終締切日から実際の入稿日までの1週間ないしは2週間の間には、さらに複数の締切日を設定します。便宜的に、プロジェクト開始時点で周知する締め切りをおもての締め切り、あるいは公称締め切りと呼称します。後から出す(延ばす)締め切りは、裏の締め切りです。

まず、公称の最終締切日の直前まで、裏の締め切りについては口外してはなりません。締め切りが伸びるとわかっていては、もはやその締め切りは締め切りで無くなりますし、著者の尻を叩く効果はほとんどなくなってしまいます。

最終締切日の1日前くらいに、満を持して、「進捗いかがですか?あと3日伸ばしたら追記できますよね?」という風なもったいぶった形で締め切りの延長を宣言します。これが1回目の裏の締め切りです。このテクニックは2回くらいは使えます。公称締め切りに対して遅れた執筆者に適度なプレッシャーを与えつつ、筆が乗っている締め切り直前の精神状態を維持することができます。そのためにあらかじめ確保しておいた公称締め切りから真の入稿期限までの1〜2週間です。

ただし、絶対に早割入稿の締め切りを超えてはいけません。早割を超えてしまうと、印刷費用がアップするという点が一つ、もう一つは、通常入稿や割増入稿という悪魔の蜜の味を知ってしまうことです。一度その蜜の味を知ってしまうと、次回以降それが標準ラインになってしまうというリスクがあります。さらにもう一ついうと、この延長を見越して最初から公称締め切りを1週間遅らせたとしても、原稿のクオリティ、分量は変わりません。ゆっくり原稿を書いている(あまり進捗のない)時間が1週間増えるだけです。それでいて、バッファを確実に削る行為ですから、やめたほうがよいです。ß編集長が締め切り目前に風邪をひいたり仕事が急に忙しくなったなどの事情が発生した時に、新刊が落ちるということに直結します。

オンライン頒布とプロモーション

プロモーションは、売り上げに直結します。ただし、直前に告知してもあまり意味はないように思います。全体構成やページ数などが見えてきた段階で告知やプロモーションを始めると良いでしょう。通常入稿期限あたりからイベント直前、イベント中は多数のイベントに関連するTweetが流れます。したがって、自分の本がそれらに埋もれてしまうということになります。

これに対して、早めにプロモーションを始めることで、他のTweetに埋もれづらくなり、かつ他の人の目に触れる時間が長くなるでしょう。そういう意味では、できるだ早くプロモーションを開始することが望ましいといえます。

また、合同誌のメリットとして、複数の著者がいますから、それぞれ独自にTweetすることにより、より広く周知することができるというメリットもあります。

オンライン配布については、プラットフォームとしてはBoothが最大手といえるでしょう。技術書典の公式での電子版プラットフォームは、2020年3月〜4月の技術書典応援祭で設定されましたが、こちらは期間限定です。技術書典に参加する各サークルのサイトから直接購入できるなど便利でしたが、残念ながら期間限定です。

なお、サークルの実情としては、イベント連動ということもあり、予想以上の売り上げがありました。この期間にはBoothでも同時に売り上げが出ました。

さて、物理本のオンライン頒布についてですが、なかなか厳しいものがあるというのが実感です。

当サークルでも、とらのあなに物理本を委託していますが、たくさん売れるという印象はありません。全く売れないというわけではありませんから出す意味がないとはいいません。店舗あるいは通販で手に取っていただける機会があるという意味では十分に価値があります。しかし複数の書店、プラットフォームにむやみやたらに出す必要はないと考えます。在庫の管理コストもバカになりませんし、往復送料などの付帯コストもかかってきますので、まずはどこか一箇所から始め、売れ行きを見ながら徐々に始めていくのが良いでしょう。

即売会(オフライン)以外での物理本の扱いは、どうしても小口荷物の荷捌き・運搬コストが乗ってきます。そういう意味では、委託・オンライン頒布については、電子版に限定するという割り切りも十分に現実的であろうと考えます。

一方で、イベントにおいては、電子版より物理本の方が圧倒的に数が出るという現状はまだしばらく続くであろうと考えています。物理本の内容確認における帯域の太さ、斜め読みができるといったユーザビリティは現状の電子版では太刀打ちできません。在庫や印刷費という問題はありますが、イベントにおいて電子版のみで戦うのは少々厳しいものがあります。特に見本誌なく電子版のみでの頒布は厳しいでしょう。頒布するのは電子版のみとしても、物理的に印刷した見本誌をおいておくなどの工夫は必要です。

オンライン打ち上げ

本が発行できたら、次は打ち上げです。売り上げで関係者みんなでパーっと飲みましょう。とはいえ、この時期にはオフラインの飲み会は厳しいですね。となると、オンライン飲みが選択肢にあがるわけですが、 オンライン飲み会の章を参照ください。もっとも、この本の打ち上げは、オンライン飲み会ではなく、コロナが落ち着いたらオフラインの飲み会でやる予定です。

最後に

同人誌、特に合同誌をオンラインで共同作業として作るためのノウハウについてまとめました。

アウトプットの形態として、本を書くことはかなり上質なアウトプットです。確かに必要なノウハウはあるのですが、この界隈には頼んでもいないのに教えてくれる人もいます。合同誌プロジェクトもあります。まずは参加してみませんか?

技術同人誌は、オフライン/物理本が前提の世界から、オンライン・電子の世界への過渡期であると考えます。まだ紙を基本としたところ及び紙から媒体を変えただけでそれ以外は同じという状況にあり、真に最適な解がどういうかたちになるのかは今現在はわかりません。これを見届けるというのも技術同人誌の世界に足を踏み入れるひとつの面白さかもしれません・・・